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4年ぶり4冊目(11月22日 晴)

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ほぼ4年ぶりの単行本発売ということで、ささやかなお祝いがてら、とある近所の洋食屋さんで食事をしました。住宅地の中にあり、ふつうの一戸建ての1階をお店に改装しているだけの、小さな所です。ご夫婦で営まれていて、メニューはいつものコース料理しか無いのですが、その出されるサラダにしろスープにしろ、いちいち凝った、他では見られないものを出してくれて、大変美味しく、またお値段の方も手頃です。ほんの気持ち程度に流れるBGMと、2時間ごとに鳴る鳩時計だけの静かな店内には、テラスに面した大きな窓から日が差し、シェフと奥さんは頃合いを見ては皿を下げに来て、黙々と、しかし丁寧に次の料理を運んでくれます。お店ができてもう30年近くになるようで、それだけの間、この堅実で素晴らしい仕事を続けてこられたのかと思うと、本当にこの方々に尊敬の念を抱かずにはいられません。 自分の仕事も、そのようになれればいいと願います。

名作インタビュー(7月4日 小雨)

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まんがStyleさんの企画『あのまんが家が何度も読んだこの名作』ということで、3本漫画を挙げさせていただきました。『少女・ネム』と『菫画報』と『加藤洋之&後藤啓介作品全般』です。好きな漫画は色々ありますが、あえてこの3本を選んだのは、特に中高生の頃に愛読したものであることと、現在も比較的入手が容易であることです。なので単行本が出ていない沓澤龍一郎さんや博内和代さんの作品群は外しました。またパトレイバーなど、週刊少年誌で連載されたメジャー作品も、今回はあえて避けました。 『少女・ネム』は漫画家を目指す少女の物語で、カリブさんの原作も大変面白いのですが、木崎ひろすけさんのその絵が、もう、本当にもの凄くて。トーンを使わない線とベタだけで構成された画面、自由自在で見事な構図の数々、キャラクターから細部の小物に至るまでのデフォルメのうまさ。当時から凄まじいと思っていましたが、業界の隅っことはいえ絵を描く人間になってから見ると、ますます凄さがよくわかるようになり、あらためて、溜息が出ます。 『菫画報』は当時月刊アフタヌーンを買うようになった頃、雑誌を読んで一番最初に「あ、これ面白い。単行本買おう」と本屋に走った漫画です。新聞部という文化系の部活を舞台に巻き起こるなんてことない日常と、なんてことある非日常の毎日。身長175センチ近いけれども心は乙女な女子高生・星之スミレをはじめとした軽妙なキャラクターが織りなす洒脱な会話が魅力の作品です。 『加藤洋之&後藤啓介作品全般』というのは、加藤さんと後藤さんの二人組のイラストレーターの方の一連の作品郡です。繊細な筆致と淡い色使いが大変魅力的で、またそうした絵柄で描かれる漫画の内容が実にSFしていて、夢中になりました。画集サイズの作品集が何冊も出ているのですが、あえて一本挙げるとしたら、『トーランドットの錬金術師』に収録されている『OXID MUSIC -酸化した音楽-』がとても好きです。 まだ読んだことのない方々に、この紹介が作品に触れる機会になれば幸いです。 ※2021年現在、インタビュー記事は消えてしまっているようです。

刑務所の前のしあわせ(1月21日 晴)

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花輪和一さんの「刑務所の前」が面白いです。花輪氏と言えば「刑務所の中」がもう有名過ぎるほどに有名ですが、こちらの「刑務所の《前》」の方は、案外読んでない方が多いんじゃないでしょうか。あるいは、存在自体は知っていて1巻とかを読んでみたけれども、期待した「刑務所の中」と同じ獄中生活のアレコレが思ったよりも少なく、そのまま読まなくなった方も居るのではないでしょうか。ないでしょうか、とかなんとか言ってますが、これはまあ要するに自分の事です。 「刑務所の前」は基本的に3つのパートに分かれていて、それらが混在しながら進行していく漫画です。初めて読んだ時の感想を飾らずに言えば、「面白いんだけどなァ…」でした。3つのパートのうち、刑務所パートは「刑務所の中」同様の面白さがありますし、刑務所に入る前、友人から入手したボロボロに錆びた実銃をコツコツと修理していくパートは、じつにオトコノコの工作心をくすぐる内容でこれまた大変面白いものでした(特に、緻密なペン画で描かれた銃器描写は息を飲むほどに素晴らしいです)。ですが、3つ目のパート、日本の中世を舞台にした物語には、どうにも困惑してしまった、というのが正直なところです。 前途の2つのパートが花輪氏を主人公にしたいわゆる実録モノなのに対し、この第3のパートは完全な創作です。日本で鉄砲が普及しはじめた時代、鉄砲鍛冶を父に持つ童女と、裕福な米問屋に生まれながらそれを投げ捨て祈とう師を目指す娘、このふたりの女の子の世代を超えた友情の物語です。直截な言い方をすれば暗く、どろどろした怨念うずまく物語であり、「刑務所の中」や他2つの実録パートの軽妙さとのギャップに読んでいて困惑しました。これが前途した「面白いんだけどなァ…」の「だけどなァ…」の部分です。それゆえ「刑務所の前」のほうは、2巻まで買っていましたが実録パートだけ飛び飛びに読み直しながら、この中世パートは長らくほったらかしにしていたのです。ところが。先日、ようやく重い腰をあげて完結巻である3巻を購入し、それを機に中世パートも含めて全巻通して読み直してみたところ、……面白い。改めてきちんと読んでみると、この中世パートが滅茶苦茶面白いのです。なんで初見でこの面白さに気付かなかったのでしょうか。 中世パートの主人公のひとりは鍛冶屋の娘の童女です。年端もいかない彼女はしばしば父親の鍛冶仕事を手伝います...