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死んだ友達の話

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先日、ある編集さんとの打ち合わせで「死」の話になった。亡くなる人というのは世の中どうしても出てくるが、その中でも自ら命を絶ってしまう人の話だ。仕事も、家族や友人との関係も良好、いつも明るく悩みなどないような人が、ある日突然なんの前触れもなく自殺してしまい、周囲には全く原因がわからない。そういうようなことがあるそうだ。残された家族や友人は、自分たちでは助けられなかったのか、相談できる対象と思ってもらえなかったのかと悔やみ続けるという。伝説のビブリオフィリアであり、自身も美しい文章を書き、しかしその自殺により名を残してしまった二階堂奥歯や、死にたがり、いわゆる希死念慮についての話もした。どこかで「呼吸がしづらいと希死念慮が強くなる傾向がある」という話を聞いたことがあり、耳鼻咽喉科などで呼吸を改善すると急激に生きやすくなったりすることもあるそうだ。こういう話をすると不安がられそうなのでついでに書いておくと、自分自身に関しては「死にたい」などと思ったことは、これまでの生涯ただの一度もない。いつでも不老不死や永遠の命が欲しいと思って生に執着して生きている。幸せな人間である。 今年で40歳になるが、同級生で死んだやつ、というのは聞いた限りでは2人しかいない。これは少ない方だろうか。より正確に数えると3人で、いちばん若い話だと、同じ小学校に通っていた女の子が中学にあがったばかりの頃に亡くなってしまった。もともと難病をかかえており、闘病しながら登校していたのだった。ほっそりとした可愛い子で、同じクラスになったことはなかったが、あんな若さで亡くなってしまうのは可哀想としか言いようがなかった。 中学一年生のときの同級生で、同じ陸上部だったAが、大学生のときに亡くなった。バイクに乗っている際の事故だったが、きちんと赤信号で停車している時に後ろから車が突っ込んできて、本人には一切非がなく避けようもなかったという。Aは陽気な調子のいい男で、人気者で友達も多かった。部活を通じていろいろ遊んだものだが、特に覚えているのは映画にまつわるエピソードだ。Aがなぜか、真田広之主演の『ヒーローインタビュー』という映画を非常に観に行きたがったことがあり、けれどもまわりの友人が誰一人興味を示さずに、最終的に僕と二人で映画館に観に行った。映画館はほぼ満杯で一人分の席しかなく、Aに席を譲り、僕は二時間近くを立ち見...

KZくんの自画像

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先日発売した雑誌『美術の窓』6月号に、画家の 山本大貴くん との対談が載っている。同級生・同窓生特集ということで、山本くんとは予備校・大学の先輩後輩という関係にあたり、彼からの指名でお呼ばれした。美術予備校・美術大学を卒業したとはいえ、それは漫画家を目指すための腰かけに籍を置いたもので、既に美術界隈から遠ざかって久しい人間が、絵について専門誌で語るというのは非常に体裁が悪く感じたが、現在の写実絵画界の第一線で戦い続けている正真正銘の画家・山本大貴のバックボーンを掘り下げる一助になるならと、快諾して対談を行った。対談自体は非常に楽しく、特に予備校時代のとりとめのない思い出話を延々と続けてしまったのだが、取材した編集の方の見事な手腕により、内容を損なうことなく綺麗にまとまった記事になっていたと思う。ゲラを頂いたとき、あんなに直すところが見当たらない原稿は初めてだった。  対談の際、山本くんは昔の予備校時代の絵のデータを今でも随分と多く持っており、MacBookに保存されたそれらを眺めながら話が弾んだ。卒業して20年以上経っていても、あの頃毎日眺めていた絵たちというのは深く記憶に刻まれており、誰がいつ描いた絵なのかがお互いスラスラと出てきた。この人は色づかいが本当に上手かったね、この人が最初にこの道具を使い出して、等々。そんな中で1枚、ひときわ目を引く絵があった。たぶんその絵のことを見るのは20年ぶりだったが、すぐに思い出した。それは、ある男子生徒の描いた自画像だった。  正面を向いた、若い男性の油画である。胸まで入る構図で、体は裸、やや肩を斜めに前後させており奥行きを感じる。パーマのかかった髪型、細い銀縁の眼鏡、イケメンと言っていい整った顔立ちだが、その表情には作者本人の生真面目さ、真摯さと、そして若者特有の茫漠とした不安が滲み出ていた。背景は真っ青な快晴で、その下に様々な動物や植物──おそらく本人の好きなものなのだろう、それらが並び立ち、さながら楽園のような様相を呈していた。驚くべきはその描写力で、真に迫るものがあり、肌や肉、その奥の血管や骨格を感じるほどリアルで、美術館で見たことのある一流の画家たちの肖像と比べても、何ら遜色のない出来だと感じられた。サイズは確かF30で、受験用のサイズ(F15)より大きかったはずだ。それを描いたとき、予備校生である...