投稿

2025の投稿を表示しています

『星をつかみそこねる男』と「やる気」

イメージ
  水木しげる氏の 『星をつかみそこねる男』 という漫画を読んだ。近藤勇および新撰組を題材にした作品であり、氏の調布の家の近くに近藤勇の墓碑があったのが着想だという。妖怪漫画の大家として著名な作家の作品のうちでは、ややマイナーな部類に入るかもしれない。 そんな作品をなぜ、わざわざ読んだかというと、 『ゲゲゲのアシスタント』 という漫画に登場しており、えらく関心を寄せられたからである。『ゲゲゲのアシスタント』はその題名の通り、水木氏のアシスタントを務めた土屋慎吾氏による同人誌で、水木プロで働いていた1968年5月~70年12月までの2年半の体験を中心に、のちに官能劇画の帝王と呼ばれるまで大成するも警視庁から発禁処分を受けるなど、自身の漫画青春譚が赤裸々に描かれている。また愛知県犬山市での似顔絵屋としての活躍や、コロナ禍にアマビエ画のオーソリティとなる異変など現在の状況もたびたび挿入されており、非常に読み応えがある作品である。今のところ「完全版」「続」「続々」「続々々」の4冊が出ているが、最新の「続々々」以外は入手が難しい状況にある。 さて、話を『星をつかみそこねる男』に戻そう。同作品が実は『続ゲゲゲのアシスタント』に登場しており、すでに土屋氏が水木プロを去ったあとのエピソードとして語られている。当時、水木しげる作品は次々と連載が終了しており、ガロの『星をつかみそこねる男』だけが唯一の連載となっていた。白土三平氏のカムイ伝が終了したため、水木しげる作品が雑誌ガロの柱となっていたが、当の水木しげる氏本人はやる気が出なかったという。経営が苦しいガロから原稿料が支払われなかったのが理由であるが、その一方で水木プロのアシスタントでガロの新人でもあった鈴木翁二氏には原稿料を支払っていたため、一層やる気が失せるのだった。水木氏はそんな中、連載のラフ原稿をアシスタントの山口芳則氏に持たせ、仕上げを依頼していた外注アシスタントのつげ義春氏のアパートへと運ばせる……。 水木「先月の仕上げはあまりよくなかった 今月はチャンバラシーンもあるし気合を入れてやってくれとな…」 つげ氏にそう告げるよう言われた山口氏は、アパートを訪ね、ラフ原稿を渡しながら、水木氏の言葉を伝える。当時のつげ義春氏といえば、すでに『ゲンセンカン主人』『ねじ式』などを発表しており、カリスマ作家として尊敬を集める存...